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横浜地方裁判所 昭和44年(ワ)2325号 判決

原告

石黒恒吉

外二名

代理人

木村和夫

被告

遊馬カヨ

外一名

代理人

宮崎正男

主文

被告両名は、連帯して原告石黒恒吉に対し金壱拾六万八千八百四拾参円、原告石野繁男に対し金壱拾九万壱千七百九拾円、原告遠藤実に対し金壱拾五万九千六拾八円及びこれらに対する昭和四拾参年拾弐月弐拾日以降完済まで年五分の金員の支払をせよ。

原告等の各請求中その余を棄却する。

訴訟費用中、原告石黒恒吉及び原告石黒繁男と被告両名との間に生じた分はこれを拾分し各その壱を被告両名の連帯負担としその余を同原告両名の負担とし、原告遠藤実と被告両名との間に生じた分はこれを弐分しその壱を同原告の負担としその余を被告両名の連帯負担とする。

この判決は、第壱項及び第参項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告両名は各自、原告石黒恒吉に対し金一、三二四、六八五円、原告石野繁男に対し金一、三五三、三四〇円、原告遠藤実に対し金三〇〇、〇六八円及びこれらに対する昭和四三年一二月二〇日以降完済まで年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は被告両名の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として別紙(一)記載の通り陳述し、

立証〈省略〉

被告両名訴訟代理人は、「原告両名の各請求を棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする」との判決を求め、答弁として別紙(二)記載の通り述べ、

立証〈省略〉

理由

一、二〈略〉

三、されば、被告申は本件事故を惹起した直接の不法行為者として民法第七〇九条、第七一〇条に則り、亦被告遊馬は被告車の保有者としてその運行に因り生じた同事故につき自動車損害賠償保障法第三条本文、第四条、民法第七一〇条に則り、連帯して原告らの蒙つた損害を賠償する責任がある。

四、よつて、進んで原告らの蒙つた損害につき案ずるに、

(一)  原告石黒の分 金一六万八、八四三円

1  休業損害 金三五万五、七二五円

〈証拠〉を総合すると、原告石黒が本件事故直前三ケ月間(昭和四三年九月乃至一一月)に勤務先訴外セントラルタクシー株式会社から受けた給与は九、一〇両月分とも〇、一一月分二万二、〇六三円(収入額二万五、一一八円)であつたが、これは同原告が同年七月右訴外会社の同僚運転手五名と共にその中の一名の運転する自動車に乗り横浜市内の浅間下交差点で右折せんとした際対向車線を直進してきた自動車と側面衝突し後部客席にのつていた同原告は鞭打症の傷害を受けたため、同月以降同年一〇月まで四ケ月間勤務先を欠勤したことに由るものであつて(但し、同原告はこの先行事故により自賠責保険金約三九万円の給付を受けた外交通傷害保険、任意保険等から約金三一万円、合計約金七〇万円の保険金の支払を受けている。)、右欠勤前三ケ月間(昭和四三年四月乃至同年六月)の平均所得月額は金四九、二六一円(同収入は金五二、五三〇円)であつたこと及び同原告は本件事故に因る受傷のため昭和四三年一二月二〇日から昭和四四年九月五日まで二六〇日間右訴外会社を欠勤したことを認めうべく、この事実に徴すれば同原告主張の理由により休業損害金三五五、七二五円はこれを肯認しうる。

2  賞与の喪失 金五万九、〇〇〇円

〈証拠〉によれば、同原告主張の昭和四四年夏季賞与金五九、〇〇〇円の逸失利益の損害を肯認しうる。

3  通院交通費 金一万二、九六〇円

前認定の原告石黒の通院実日数及び〈証拠〉に徴すれば、同原告主張の通院交通費金一万二、九六〇円の出捐が肯認しうる。

4  慰藉料 金六〇万円

すでに認定した原告石黒の治療期間、後遺障害の程度その他本件に顕われた諸般の事情(但し、本件事故の約四ケ月前に発生した前認定の先行事故に因り同様むち打症の傷害を受けた事実を除く。)を勘案すれば、本件事故により同原告の蒙つた心身の苦痛に対する慰藉料は金六〇万円を相当とする。

5  右1乃至4の損害の合計は金一〇二万七、六八五円となるところ、かかる損害の発生原因は独り本件事故のみではなく、前認定の約四ケ月前の先行事故による同種の受傷も亦右損害の発生に寄与していることは恰かも台風により倒壊しかかつた家屋を補強したが、未だ弱点が残つていたため間もなく再び襲来した台風により倒壊するに至つたことに似て損害拡大の結果を招来したものであることが以上認定した事実及び弁論の全趣旨により認められるから、本件事故により同原告の蒙つた損害(後記弁護士費用を除く。)は前認定の金一〇二万七、六八五円の1/2の金五一万三、八四三円(円未満四捨五入)とみるを相当とすべく、これから同原告本人尋問の結果により認められる同原告に対し給付された自賠責保険金四〇万五、〇〇〇円(自賠法施行令所定の後遺障害等級12級の補償分金三一万円を含む。)を控除するとその残額は金一〇万八、八四三円となる。

6  弁護士費用 金六万円

本件事案の難易度、訴訟経過、訴訟活動その他本件に顕われた諸般の事情を斟酌して原告石黒の負担すべき弁護士費用は金六万円を相当と判定する。

7  されば、原告石黒の損害残額は合計金一六万八、八四三円となる。

(二)  原告石野の分 金一九万一、七九〇円

1  休業損害 金三八万一、六二〇円

〈証拠〉によると原告石野は本件事故当時平均月額金三万九、八一三円(同収入は金五二、五三〇円)の賃金を得ていたところ、同事故による受傷のため昭和四三年一二月二〇日から同四四年九月一五日まで九ケ月間(二七〇日)休業を余儀なくされた事実を認めることができ、この事実に徴すれば同原告主張の休業損害金三八万一、六二〇円はこれを肯認しうる。

2  賞与の喪失 金五万九、〇〇〇円

〈証拠〉に徴すれば、原告石野主張の昭和四四年度夏季賞与金五九、〇〇〇円の逸失利益の損害を肯認しうる。

3  通院交通費 金一万二、九六〇円

〈証拠〉に徴すれば、同原告主張の通院交通費金一万二、九六〇円の出捐が肯認し得る。

4  慰藉料 金六〇万円

すでに認定した原告石野の治療期間、後遺障害の程度その他本件に顕われた諸般の事情(但し、後に認定する本件事故の約六ケ月前に発生した先行事故に因り同様むち打症の傷害を受けた事実を除く。)を勘案すれば、本件事故により同原告の蒙つた心身の苦痛に対する慰藉料は金六〇万円を相当する。

5  右1乃至4の損害の合計は金一〇五万三、五八〇円となるところ、〈証拠〉によれば同原告は本件事故の約六ケ月前の昭和四三年六月に勤務先の訴外セントラルタクシー株式会社の同僚運転手三名と共に合計四名にてタクシーに乗車して川崎へ赴く途中横断歩道上に歩行者がとび出してきたことからタクシーの運転手が急ブレーキをかけたため後続の乗用車に追突され本件の場合と同様にむち打症の傷害を受け加害者と接渉の上話合がつき同原告をふくむ右四名はそれぞれ治療費を加害者が負担した外、各自約金一〇万円の損害賠償を受けたという先行事故に因る受傷の事実が認められるから、すでに原告石黒の場合に説示したところと同じ理由により本件事故に因り原告石野の蒙つた損害(後記弁護士費用を除く。)は前認定の金一〇五万三、五八〇円の1/2の金五二六、七九〇円とみるを相当とすべく、これから同本人尋問の結果により認められる同原告に対し給付された自賠責保険金四〇万五、〇〇〇円(自賠法施行令所定の後遺障害等級12級の補償分金三一万円を含む。)を控除するとその残額は金一二万一、七九〇円となる。(因みに同原告本人尋問の結果によると同原告は先行事故の直後約四社の保険会社に保険金額合計二、〇〇〇万円の交通傷害任意保険に加入し、右自賠責保険金以外に本件事故に因る任意保険金約七八万円の給付を受けており、本件事故後の昭和四五年一二月三〇日夜に横浜市中区伊勢佐木町の裏通りで歩行中小型ライトバンとの接触事故に因り受傷し本件事故の場合と同様に同市神奈川区大口通一三四所在の鈴木病院に入院治療中でこの後続事故についての話合は未解決の状態にある事実が認められる。)

6  弁護士費用 金七万円

原告石黒の項(前記(一)の6)に示したと同じ理由により原告石野の負担すべき弁護士費用は金七万円を相当と判定する。

7  されば、原告石野の損害残額は合計金一九万一、七九〇円となる。

(三)  原告遠藤の分 金一五万九、〇六八円

1  休業損害金 一八万四、八九八円

〈証拠〉を総合すると、同原告主張の休業損害金一八万四、八九八円を肯認し得る。

2  賞与の喪失 金三万五、四〇〇円

〈証拠〉によれば、同原告主張の昭和四四年夏季賞与金三万五、四〇〇円の逸失損害を肯認しうる。

3  通院交通費 金六、一二〇円

前認定の原告遠藤の通院実日数及び〈証拠〉に徴すれば、同原告主張の通院交通費金六、一二〇円の出捐を肯認しうる。

4  慰藉料 金二二万円

すでに認定した原告遠藤の治療期間、後遺障害の程度その他本件に顕われた諸般の事情を勘案すれば、本件事故により同原告の蒙つた心身の苦痛に対する慰藉料は金二二万円を相当とする。

5  右1乃至4の損害の合計は金四四万六、四一八円となるところ、〈証拠〉によれば同原告は被告申から合計金六万五、〇〇〇円の賠償金を受領した外自賠責保険金二七万二、三五〇円(自賠法施行令所定の後遺障害補償金一一万円を含む。)合計金三三万七、三五〇円の支払を受けた事実が認められるから、これを控除するとその残額は金一〇九、〇六八円となる。(因みに、原告遠藤は本件事故による受傷のため入院し退院した昭和四四年三月三一日の九日後である同年四月九日タクシーを運転営業中側面衝突の事故を起し同様むち打症の受傷を蒙り結局自賠責保険金から金五〇万円、任意保険金給付金七一万円、合計一二一万円の損害賠償を受けていることが同本人尋問の結果により認められる。)

6  弁護士費用 金五万円

原告石黒の項(前記(一)の6)及び同石野の項(同(二)の6)に示したと同じ理由により原告遠藤の負担すべき弁護士費用は金五万円を相当と判定する。

7  されば、原告遠藤の損害残額は金一五万九、〇六八円となる。

五、よつて、被告両名は連帯して、損害賠償として、原告石黒に対し金一六万八、八四三円、原告石野に対し金一九万一、七九〇円、原告遠藤に対し金一五万九、〇六八円及びこれらに対する本件事故の日の翌日たること明らかな昭和四三年一二月二〇日以降完済まで年五分の民事法定利率による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告等の本件各請求は、それぞれ右限度内においてのみ正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文、第九十三条第一項本文、但書前段を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項、第四項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(若尾元)

〈別紙略〉

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